かつて日本の葬儀は、そのほとんどが地域の寺院や慣習に則った仏式で行われるのが当たり前でした。しかし、時代が移り変わる中で、特定の宗教形式にとらわれない「無宗教葬儀」を選ぶ人々が着実に増えています。この背景には、現代日本社会が抱える、人々の意識や価値観の大きな変化があります。最大の要因として挙げられるのが「宗教観の希薄化」です。特定の信仰を持たない、あるいは自身のことを無宗教だと考える日本人が増え、生活の中に宗教的な儀礼が根付いていない家庭も少なくありません。そうした人々にとって、形式的な読経や焼香に意味を見出せず、より自分たちの心にしっくりくるお別れの形を求めるのは自然な流れと言えるでしょう。また、核家族化や都市部への人口集中により、地域や親族との繋がりが薄れ、「家の宗教」や「檀家制度」といった旧来の枠組みに縛られる必要がなくなったことも、無宗教葬儀の広がりを後押ししています。さらに、「個人の価値観の多様化」も大きな影響を与えています。「みんなと同じ」であることよりも、「自分らしさ」「故人らしさ」を尊重する風潮が社会全体に広がる中で、葬儀の形もまた、画一的なものから、故人の人生を反映したオーダーメイドのものへと変化しているのです。故人が生前愛した音楽に包まれ、思い出話に花が咲く。そんな温かいお別れの形こそが、故人への最高の供養だと考える人が増えています。インターネットの普及により、様々な葬儀の選択肢があることを誰もが簡単に知れるようになったことも、この流れを加速させました。無宗教葬儀の増加は、日本人が宗教や儀式との関わり方を見つめ直し、弔いの本質とは何かを問い直している過程の表れです。形式よりも、故人を想う「心」。その原点に立ち返ろうとする動きが、これからの日本の葬儀文化をより豊かで人間的なものへと変えていくのかもしれません。
なぜ今無宗教というお葬式が選ばれるのか